そもそも楽器の習得はむずかしい。
「テレビなどで、ギターを演奏しているギタリスト達の姿を見ていたら、簡単そうに見えた。自分にもできそうだと思って、ギターをはじめた」といわれる生徒さんに、少なからず何人か出会ったことがあります。
しかし、ギターやピアノは「最も手軽に始められる楽器ではあるけれど、同時に最も習得がむずかしい楽器だ」ともいわれています。
そもそもテレビに出ているミュージシャンたちはプロですから、彼らのやっていることがそんなに簡単に再現できるわけがないですよね。
テレビでプロのスポーツ選手たちがスポーツをやっている姿をみると、確かに彼らには簡単そうにみえることもあるかもしれませんが、「自分も彼らと同じレベルでスポーツをしよう」とはなかなか思わないのと一緒です。
「ギター初心者の90%が一年以内でギターを辞める」
これはギターの製造メーカーの代表格であるフェンダーのCEO、アンディー・ムーニーが調査した統計データに基づくものだといわれています。
大手老舗メーカーがだしている統計なので、それなりに信憑性があると思います。ギターは、それだけ(特に独学だと)挫折率が高い楽器なのです。
ギターを演奏するうえでは、運指(うんし)といって、指先の緻密な動きが求められたり、セーハという「一本の指で複数の弦を押さえなければならない」といったような、非日常的な動作がたくさんあります。
楽器習得の難しさを侮ってしまった状態でレッスンを受けてしまうなら、かえってその難しさとイメージのギャップに圧倒されてしまうことになるでしょう。
アーティストやミュージシャンの人達が、舞台のうえでは華やかに見えるというのも、楽器演奏に憧れを抱く一因なのかもしれません。それはそれでいいのですが、舞台裏で彼らはものすごい量のトレーニングをつんでいます。
良い音楽講師に出会えれば、上達のペースをはやくすることができたり、楽器を弾く上での知識やテクニックを早く身につけることができるかもしれません。
しかし、楽器の習得に不断の努力が必要なことには変わりありません。多くのミュージシャンたちが楽器の習得というのはコツコツとした日々の練習であり、忍耐の連続であることを認めています。楽器の習得に近道はないのです。
なので、これからギターなり楽器を始めようと思っている人は、それなりに上達していこうと思ったら、覚悟をしておいた方がいいということになります。
私はギター講師として正直なことを申しますと、初めてレッスンなどに来られる生徒さんには「ギターは習得が容易い楽器である」という誤解は、少なくとも持たずに来ていただければと願っているのです。でないと、せっかく楽器やレッスンに高いお金をはらって始めたとしても、すぐにやめてしまったらもったいないですからね。
そのかわりに私のレッスンでは、生徒さんたちがひとつひとつのフレーズをしっかりと弾けるように、ていねいにレクチャーするように心がけています。
冒頭で述べたことを言われた生徒さんたちの中には、もちろんギターを演奏する魅力に気づき、今もギターを楽しんで続けられておられる方もいらっしゃいますし、逆に短期間で身に付けることを期待しすぎて挫折し、やめてしまった方もいらっしゃいます。
ただし、習得が難しい楽器であるぶん、楽器が弾けるようになった時の喜びや感動は大きいです。やはり、音楽が生活の中にある人生は素晴らしいと思えるようになるのです。